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姫路市立美術館「リアル(写実)のゆくえ」展

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姫路市立美術館「リアル(写実)のゆくえ」展へ行ってきました(11/5(日)まで)。明治初期(江戸末期)の洋画の導入から今日に至るまでの写実絵画の系譜を紹介した企画ですが、高橋由一や岸田劉生の系譜に重点を置き、黒田清輝による外光派の系譜を意図的に排した展覧会とも言えるでしょう。

私は高校生のときに「日本近代絵画の歩み展」という明治初期から昭和までの洋画、日本画の流れを網羅した展覧会を見に行ったのですが、その時惹き付けられたのが、油彩を日本が導入し始めた黎明期の絵画です。それら暗い色合いの写実に歴史的な重みを感じるとともに、日本の洋画という自我が形成される以前の、無意識の茂みのようなものを感じていたように思います。

今回はその時に見た川村清雄「少女像」や横山松三郎「自画像」も展示してあり、なつかしく思いました。高橋由一の初めて見る作品や、岸田劉生の静物画の良い作品も数点見ることが出来てよかったです(ただし、「冬枯れの道路」と「麗子像(1918年)」の代表作は姫路展不出品)。また、絵を描いていたことを知らなかった伊丹万作の油彩や、その友人でもあった重松鶴之助いう興味深い作家の作品も初めて見ました。少し気になっていた作家の実物を見て、気にする程でもないな、ということも分かりました。

現代の作家では、先にNHK日曜美術館で紹介されていて気になっていた水野 暁「the Voclcanoー大地と距離について/浅間山ー」という作品が、予想通りに大変興味深い作品でした。浅間山を目の前に野外でイーゼルを立て4年掛けて描いたという写実画で、表面を写し取ったという感じではなく、絵画的な質感とうねりを感じる作品です。
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赤レンガの立派な造りの美術館は姫路城を臨む姫路公園敷地内にあり、陸軍の倉庫として建築、敗戦後に市役所として利用したのちに美術館として再生利用されたそうです。いままでにもいくつか観たい展覧会があったにも関わらず行くことが出来ず、今回初めて訪れたように思います。常設展ではマチスの切り絵による「ジャズ」も見ることができましたが、強烈に鮮やかな配色であるにもかかわらず決してエグくならない色彩の使い方は、受験生やデザイナー志望者にも見るべきものがあると思います。(n.m.)

# by matsuo-art | 2017-11-04 13:11 | 展覧会  

ヨコハマトリエンナーレ2017-島と星座とガラパゴス、その他 その2

その1よりのつづき。
無料の送迎バスで第2会場の赤レンガ倉庫に移動。
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小沢剛の出品作は、「帰って来たシリーズ」の新作「帰って来たK.T.O」。明治の思想家岡倉覚三(天心)のインドでの足取りを追い、帰国後の六角堂での思索に思いを馳せる。インドの看板職人による絵とインドのロックグループが岡倉のことを歌ったミュージック・ビデオの展示。
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中国の作家ドン・ユアンの作品。中国の庶民的な家の内部の調度品、日用品、装飾物、持ち物、食べ物、祭壇などが、几帳面にひとつひとつのパネルに油彩画(アクリル画かも)で精密描写されて、もともとの家を再現するかのように併置、構成されています。(解説によると、これは区画整理のために解体されてしまう予定の作家の祖母の家を再現したものらしい。)そこに込められた意味を度外視しても、変哲もない日用品をひとつひとつ描写し、それを全て積み重ねて提示するというその徹底性が、(執念というよりは)その描写の手並みのクールさも相まってむしろユーモアに転化しているところが面白い、と感じました。
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他にも興味深い作品はありましたが、とりあえずこのくらいで。
展示内容やスタッフの行き届き方はもちろん、会期中に開催されるシンポジウムや関連の企画など(これはパンフなどを見て想像するだけですが)も含め、やはりヨコトリはしっかりした企画の展覧会だな、という印象でした。

その後東京に移動し、上野の東京都美術館で杉戸洋「とんぼとのりしろ」展、
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翌日、埼玉県立近代美術館で遠藤利克「聖性の考古学」展、
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東京・表参道のエスパス・ルイヴィトンでダン・フレイヴィン展、
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乃木坂の国立新美術館でジャコメッティ展などを観ました。ジャコメッティ展では、会場内の一部屋だけ作品を撮影していい場所があって、そこではあの細い人物がさながらスターのように撮影攻めに合っている様子がなんだか笑えました。(そういう私もしっかり写真を撮らせてもらったのですが。)
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東新宿にある合気道本部道場でも朝晩は稽古したので、他にも「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」(東京国立近代美術館)、「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」(21_21 DESIGN SIGHT)など観たい展覧会があったのですが、時間的にはこれが限界でした。(Y.O.)

# by matsuo-art | 2017-09-10 13:59 | 展覧会  

ヨコハマトリエンナーレ2017-島と星座とガラパゴス、その他 その1

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8/29-30の2日間にわたって東京(横浜、埼玉)にいくつかの展覧会を観に行ってきました。

まず最初は、横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫などで開催されている「ヨコハマトリエンナーレ2017-島と星座とガラパゴス」です。
思えば、ヨコハマトリエンナーレは、前回、前々回などここ数回連続で観ています。今回は3会場、39組の作家が出品しているとのことです。
事前にコンセプトや出品作家などの知識を持たないまま、全く白紙の状態で何となく観に行ってみた、という感じだったのですが、いくつか面白い作品に出会うことができました。

中国出身の作家アイ・ウェイウェイの作品です。今回の展覧会を象徴するかのように横浜美術館の建物正面に、救命胴衣とゴムボートが多数貼付けられていました。
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イギリス出身の作家ケイティ・パターソンの化石を丸く削ってつなぎ合わせたネックレスです。
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イタリア出身の作家タチアナ・トゥルヴェのインスタレーションです。何色かのシートが重ねられた上に、彩色された段ボール(?)の掘建て小屋のような仮設の居住空間が設置されていますが、ひとつひとつの素材の扱いと、空間を構成する際の手並みに非常にセンスとユーモアを感じて、見飽きませんでした。
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アメリカの作家ロブ・プルイットの、大判のカレンダーの升目にアーティスト、ミュージシャン、文学者などの誕生日と命日、記念日などをイラスト入りで緻密に描き込んだ楽しい作品。
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マレーシアの作家アン・サマットの作品「酋長シリーズ」。ほうき、ねじ、スプーン、毛糸、ジャーレン、蚊取り線香など、日常品ばかりで作り上げた壁掛けの立体作品。これも細部の隅々にまで様々な工夫がされている様子を見るのが楽しく、じっくりと見入ってしまいました。
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デンマーク出身の作家オラファー・エリアソンの作品「Green Light-アーティスティック・ワークショップ」。近年評価が著しい作家ですが、今回の作品は様々な立場の人々がともに学び、ランプを組み立てるという行為を通じて交流するためのワークショップを紹介するもの。提示された作品そのものとともにその思想的な部分も含めて理解しなければならないでしょう。
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その2に続く。(Y.O.)

# by matsuo-art | 2017-09-10 13:22 | 展覧会  

「抽象の力ー現実展開する、抽象芸術の系譜」展 / 豊田市美術館

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豊田市美術館(愛知県)に「抽象の力ー現実展開する、抽象芸術の系譜」展を観に行きました。
当日はこの展覧会の企画構成者の岡崎乾二郎氏による講演もあり、そのいつもながらの対象への多面的な捉え方と補助線の引き方のオリジナリティー、そして歴史の細部への目配りのおかげで、このユニークな展覧会への理解を深めることができました。

この展覧会は、豊田市美術館のコレクションを中心に一部外部からの作品を加えて構成し、20世紀はじめから戦後までの、今まで通説とされてきた抽象芸術の系譜を組み替えようとするラディカルな試みです。ただ、展示された作品を一瞥しただけではこの展覧会の意図を理解することは難しいと思います。そのため、カタログに岡崎氏による長い論考が載っています。(カタログに記載の論考は展覧会専用のウェブサイト上でも読むことができます。)その内容は一度に咀嚼できない大きさと多面性を持ちますが、私なりに非常に強引にその要点を挙げれば、

1)キュビスムが抽象芸術の起源とは必ずしも言えず、抽象はむしろ象徴主義や神秘主義、あるいは数学など自然科学の影響下に誕生したこと
2)また抽象芸術誕生の前段階としては、フレーベルらによる幼児教育と彼らによって考案された教育玩具の存在があったこと
3)一般にヨーロッパの芸術運動の模倣あるいは亜流と見なされてきた日本の前衛芸術の運動を、世界史的にとらえ直すことによってその同時代性、先見性を明らかにすること

などが言えると思います。
他にも、ダダイズム、手工芸、女性芸術家、ヨーロッパの中心ではなく”周縁”が出自の芸術家の存在などに注目することによって、現実と直に関わる方法としての抽象、そしてそれが現在も有効であることを明らかにしようとしているのではないかと思います。

講演で岡崎氏は、いろいろな制約があって氏が重要だと思う芸術家の何人かの作品が展示できなかったこと(その中には抽象絵画の”本当の”創始者といえるスウェーデンの画家 ヒルマ・アフ・クリント も含まれていたとのこと)、また演劇や映画などのジャンルを十分にカバーできなかったことを言っていましたが、展覧会の中で網羅できなかった部分の論考は近日中にウェブ上で完全版として公開されるとのことでした。

展示作品の中でとりわけ個人的に観られて良かったと思ったのは、元・「具体」の画家である田中敦子さんの非常に大きな作品です。一番最初の部屋に象徴的に展示されており、しばらくの間近くに寄ったり離れたりしながらじっくりと観ることができて良かったと思いました。
(田中敦子さんの作品は、現在、兵庫県立美術館の常設展示室におけるテーマ展示 "Out of Real"でも、初期のドローイングを含め何点か観ることができます。)(Y.O.)

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# by matsuo-art | 2017-05-15 16:12 | 展覧会  

海北友松 展 京都国立博物館

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海北友松(1533~1615)は狩野永徳、長谷川等伯と並び称される桃山画壇の巨匠として、私が若い頃には日本美術の画集に必ずその作品が掲載されていた絵師。ただ最近は若冲や長沢芦雪などが注目されるようになったのとは反対に存在感が弱くなっていて、このまま歴史のスポットライトからはずれていくのかな、とも思っていた。一時期歴史の中に存在を埋没させていた若冲が浮上したのと入れ替わるように歴史から消えていく?と余計な心配をしていた折からのこの展覧会。私自身、その名前を知っていても実作に触れたことはほとんどなかったので、良い機会だと思い行ってきた(5/21(日)まで、京都国立博物館)。

4月29日、土曜の祝日に行ったので混んでいるかと心配したが、観客は少なくまばらで鑑賞条件としては非常に良好。金・土曜は夜間観覧が夜8時まで行われているので6時過ぎに入館して8時までじっくり鑑賞することができた。 

その生涯についても知らなかったのだが、武家出身の友松が絵師として頭角を現すのはなんと60才になってから。83才まで生きたその晩年に巨大障屛画も含めた主要作品を描いたというのには驚いた。狩野派に師事し、2代目狩野元信(1477?~1559)やその孫、狩野永徳(1543~1590)に直接学んだと言われており(元信が他界した年に友松27才)、狩野派から独立したのは1590年に永徳が没した直後という(友松57才)。永徳と長谷川等伯(1539~1610)の2人は利権をめぐって対立していたと伝え聞く中、友松はどういう位置にいたのかと以前から疑問だったのだが、少なくとも友松と永徳とは対立のしようがなかったのだと納得。

友松は年に一度の法要のための金地屏風三双を、狩野山楽(1559~1635、永徳の養子)とともに妙心寺に納めているが、そういうところを見るとその後も狩野派とはうまくつきあっていったのかな、と思う。ちなみに永徳は友松より10才若いが25年も早く没している。等伯は6才若いが5年先に没している。山楽は26才若く、友松の没後20年生きた。

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   海北友松 建仁寺大方丈障壁画「雲龍図」

得意な画題であったという龍の絵はどれも興味深く、特に建仁寺大方丈障壁画の「雲龍図」(1599年)は素晴らしかった。巨大な横長の画面に円弧の渦と2頭の巨大な龍が絡んだ構図がよく練り上げられ、雲で見え隠れする龍を墨の濃淡で表現し前後感を与えている。大胆に画面を大きく使っているが勢いにまかせて描くのではなく、画面の動きを損なわないよう注意深く形態を描いている。こうした巨大な龍の絵としてはひとつの完成形だと思ったし、そもそもこうした巨大な龍の絵のスタイルを築いたのはこの人ではないのか、とも思った。

その表現は牧谿(13世紀、南宋時代)の影響を受けていると指摘されているが、確かに暗い墨の中から浮かび上がる龍が醸し出すその雰囲気は「禅展」(2016年、京都国立博物館)で観た牧谿の「龍虎図」の龍と似ている。牧谿の龍は、経年劣化もあるのだろうが全体に暗い画面で、その中央に霊感を伴う龍の頭部が浮かび上がる様子が魅力的だった。ただし、牧谿の絵は縦長画面の掛け軸で、巨大な龍ではない。
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   牧谿 「龍虎図」より部分

江戸中期になると曾我蕭白(1730~1781)がボストン美術館にある、あの超巨大な「雲龍図」(1763年)を描いたが、今思えばあれは、海北友松の龍を思いっきり大胆にあっけらかんと巨大化しました、という感じの龍だ。墨の暗さ、立て掛けて流れた墨などに似た要素を感じる。たとえば俵屋宗達(1570頃?~1640頃?)も大きな雲龍図を描いたが、薄墨のたらし込みによる明るい白さの中に霊獣の神聖さを感じさせる作品はまた別の趣きだ。フリア美術館にあって門外不出、一度は眼にしたいと思っている作品だが、宗達最晩年作と言われていて、友松の龍より時代は少し後になる。長沢蘆雪の無量寺にある大きな「龍図襖」も江戸中期と時代はさらに後で、さばさばと筆を走らせた南画のような作風だ。

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   俵屋宗達 「雲龍図屏風」右隻

「ボストン美術館展」(2013年、京都国立博物館)で観た長谷川等伯の「龍虎図屏風」の龍も大きくて同時代の作品だが、こちらは1606年作なので友松の建仁寺大方丈障壁画より7年ほど後になる。ボストン美術館展では古い年代順に作品が展示されていたが、この等伯の部屋に入り大きな龍図を目にして、近世の到来を実感した。広く余白を取り、大きな雲(波?)が柔らかなかたちをした大和絵風の龍図である。そもそもこの時代に霊獣を大画面に描くということを始めたのは狩野永徳だと思うが、教科書でよく目にしていた永徳の「唐獅子図屏風」の実物を「狩野永徳展」(2007年、京都国立博物館)で観たときに、”大きな生き物を大画面から浮き立つように描く”というコンセプトで80年代に作品を描いていた者としては、我々がやろうしていたことをすでに400年前の永徳がしていたという事実に対面して呆然とした。永徳や等伯の時代に現れた近世の絵画は現代と地続きだ、と私には思えた(永徳は安土城にも龍の絵を描いたようだが現存していない)。

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   長谷川等伯 「龍虎図」より右隻の龍図

さて、雲龍図とともに今回注目の作品は、60年ぶりにアメリカより里帰りした「月下渓流図屏風」。今までに画集などでも目にしたことのない作品で、先に観たNHK日曜美術館では”奇跡の名画”と紹介されていた。さすがにそれは大げさすぎるのでは、と思っていたが、実物を観て、なるほどこれは素晴らしい絵だ、と納得した。

大和絵風の柔らかい形象で川の流れを描いている。左隻のゆるやかな流れは等伯の龍虎図に描かれた雲(波?)のようにおおらかな曲線を描いているが、右隻に流れる雪解け水の流れは若干速くて、岩と岩が狭い隙間を挟み緊張感を持って接している。松、梅、土筆、蒲公英などの草木はどれも画面の隅であったり小さくあったりして、控えめに存在している。満月と思われる月も雲か霧に隠れて半分も見えない。大きな余白が空間を支配していて、環境音楽のような絵だと思った。等伯の松林図屏風のような目立った存在ではないが、同じ時期に大陸の情景ではなく和の情景を水墨で描いた作品として注目されてよいだろう。

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   購入した絵はがき。上から 雲龍図2枚、月下渓流図屏風右隻、同左隻。

鑑賞後に絵ハガキを選び図録を買おうとレジに行くと、なんと図録の表紙が2種類あって、一つは雲龍図、一つは月下渓流図となっている。中身は同じだというが一瞬迷ってしまった。でも月下渓流図の表紙は”京博限定”という言葉につられてそちらを購入(巡回しない企画なのに京博以外のどこで売っているんだろう?)。龍の表紙のほうが迫力があってよかったかも、と若干悔やみつつ帰宅したが、家で「長谷川等伯展」(2010年、京都国立博物館)の図録を取り出してみて、どちらも薄墨の絵に銀のタイトル文字で瓜二つなのに気付いた。等伯展の表紙画像は松林図。これは意図されたものだな、と後付を見ると同じデザイナーさんだった。双子のような図録を並べて、こちらの表紙にして良かったな、と思った。(n.m.)

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# by matsuo-art | 2017-05-11 03:46 | 展覧会