イタリア美術紀行ーアッシジ編

f0189227_747930.jpg

9月21日の夜、アレッツオから列車でアッシジに到着。31年ぶりの再訪です。
鉄道駅からバスに乗り、小高い山の上にあるアッシジの街に向かいます。バスの終着駅からホテルまでは少々距離があり、暗くなってしまった石畳の街路を重い荷物を引きずって歩かなくてはなりません。アッシジの街は、曲がりくねった細い路地や坂道ばかりで階段などもあり、たちまち自分がどこを歩いているのかわからなくなってしまいました。暗いので地図もよく見えず、(そもそも地図は平面なので)山の中腹に上下に道が積み重なっているこの街では、自分が歩いている道が地図上のどの道なのか実感がありません。しばらくのあいだ当てずっぽうに歩いていたら、偶然にホテルの前にたどり着くことができました。

翌朝、早く起きて夜明けのアッシジの街を散策しました。
聖フランチェスコ聖堂ではすでに早朝のミサが始まっています。聖堂前の広場では、聖フランチェスコさながらのつぎはぎだらけの糞掃衣(のような)を纏った独りの老人が、祈りを捧げながら膝で歩いて聖堂に向かっていっていました。アッシジは、清貧の聖人と呼ばれた聖フランチェスコが生まれ、キリストからの啓示を受けて修道士となった後の活動の拠点であり、そして亡くなった街です。彼の遺徳を偲ぶ人々が巡礼のためにやってきます。

f0189227_7471390.jpg

f0189227_7471917.jpg

f0189227_7472389.jpg

朝食後、聖フランチェスコ聖堂に改めて参詣し、上部聖堂のジオットの聖フランチェスコの生涯を描いた一連の壁画を観ました。(近年、これはジオット作ではないという有力な説もあるようなのですが。)有名な、小鳥に説教する場面が入り口すぐのところにあります。28の場面が描かれた中で、私は「聖痕を受ける聖フランチェスコ」の場面が特に美しいと思いました。
(聖フランチェスコ聖堂内は撮影禁止のため、以下の堂内の写真や壁画の図版は、絵はがきなどからのものです。)

f0189227_7472734.jpg

f0189227_7473213.jpg

f0189227_7473787.jpg

下部聖堂にはシモーネ・マルティーニによる大きな壁画がありますが、その脇にチマブーエによる聖母子像が描かれていました。(チマブーエによる壁画は上部聖堂にもありますが、痛みが激しくほとんど見えなくなってしまっています。)天使に囲まれる聖母子の隣には聖フランチェスコが立っています。一目見るや否や、このチマブーエの絵の放つ強いパワーに圧倒されてしまって、しばらくのあいだ目が離せなくなってしまいました。

f0189227_7474263.jpg

昼すぎまでアッシジを散策した後、鈍行列車に乗っていよいよローマへと向かいます。(Y.O)
[PR]

# by matsuo-art | 2015-10-27 08:59 | 美術  

イタリア美術紀行ージオット/ マサッチオ/ ピエロ・デラ・フランチェスカ

f0189227_23145322.jpg

1)9月18日朝、スクロヴェーニ礼拝堂の中に描かれたジオットのフレスコ画を観るためにヴェネツィア・メストレから列車でパドヴァに向かいました。パドヴァは、メストレから35分くらいのところにある古くからの大学街です。
スクロヴェーニ礼拝堂の観覧は予約と観覧料の先払いが必要で、イタリアに来る前にネットで日時を予約していました。
スクロヴェーニ礼拝堂を管理している市立美術館にかなり早く着くと、受付のおじさんが、予約時間前だが定員に空きがあるから今すぐ観覧していい、と言います。本来ならば予約時間の1時間前には着いていなくてはならないので早めに行っていたのですが、時間が節約できてラッキーでした。
礼拝堂内は厳格に温度や湿度の管理がされていて、一度に観れる人数は25人程度までで、観覧時間は15分。堂内にいっぱいに描かれたジオットの絵を15分で観なければなりません。
係の人の案内に従って堂内に入ると、ジオットの豊かで柔らかい色彩が空間いっぱいに感じられます。やはり図版で見る色とは全く違うように思います。ディテールを観るために双眼鏡だけは持って入っていたのですが、結局あまり役に立ちませんでした。それよりも、堂内に溢れる柔らかい色彩を身体で感じた方が良いと思いました。
(ここは写真撮影が不可だったので内部の写真は撮っていません。)
付け加えると、この市立美術館は職員たちが皆親切で礼儀正しく、すごく気持ちよい美術館でした。

f0189227_23145817.jpg

2)9月20日昼、フィレンツェ、サンタ・マリア・デル・カルミネ教会の中にあるブランカッチ礼拝堂にマサッチオとマゾリーノが描いたフレスコ画を観に行きました。ここは31年前に来たことがあるのですが、夕方だったので暗くて、壁画の一部である「楽園追放」の部分がほのかに見えた事ぐらいしか覚えていません。

f0189227_2315372.jpg

f0189227_1728796.jpg

f0189227_2315980.jpg

f0189227_23151422.jpg

f0189227_23151948.jpg

ジオットが開いた新しい絵画の地平(ゴシックの形式性から、より自然な知覚をもとにしたスタイルへの移行)をマサッチオが受け継ぎ発展させた、という美術史的な重要性ばかりではなく、マサッチオの絵には人物の形態のおおらかさや彫刻的な力強さなどから来る普遍的な魅力がある様に思います。

f0189227_23152475.jpg

3)9月21日昼すぎにシエナを発ち、再びバスに1時間半ほど乗って、アレッツオの聖フランチェスコ教会の中に描かれているピエロ・デラ・フランチェスカのフレスコ画「聖十字架伝説」を観に行きました。
ピエロ・デラ・フランチェスカはマサッチオの少し後の世代で、マサッチオの遠近法空間をさらに進化させました。しかし長らく忘れられ、(フェルメールなどと同じく)20世紀になってから美術史家のロベルト・ロンギらによって「再発見」された画家だということです。その明るい色彩、静かで理知的な画面を見ていると、クラシックな重厚感よりはむしろ平明でモダンな感覚があり、それもわかるような気がします。

f0189227_23152961.jpg

f0189227_23153511.jpg

f0189227_23154188.jpg

f0189227_23154686.jpg

f0189227_2315521.jpg

実はこの3箇所のフレスコ画は、24年前のイタリア滞在の際にも訪れ、門前までたどり着いたものの「修復中につき観覧不可」で、後ろ髪を引かれながら引き返した思い出のあるものです。ですから今回の旅行では必ず見たい作品でした。それぞれすっかり修復されてきれいになった画面を、感慨深く観ることができました。(Y.O)
[PR]

# by matsuo-art | 2015-10-26 01:13 | 展覧会  

イタリア美術紀行ーシエナ編

f0189227_0432753.jpg

9月21日、早朝フィレンツェを発ちシエナに向かいました。フィレンツェからは急行バスで1時間半ほどの道のりです。

f0189227_0433198.jpg

f0189227_947994.jpg

f0189227_0433711.jpg

今回の旅行は非常に限られた日程だったのですが、シエナには是非行きたかったのです。31年前の旅行の折にも立ち寄ったことがあるのですが、そのときにはあまりピンと来ていなかったシエナ派の絵画が年を経るごとにだんだんと好きになって来たからです。シエナの街そのもののように中世の香りを濃厚に残す、瞑想的なシエナ派の絵画を国立絵画館と市庁舎内の美術館で概観しました。

f0189227_9463850.jpg

f0189227_9535768.jpg

f0189227_0435229.jpg

市庁舎内に描かれたシモーネ・マルティーニのフレスコ画「マエスタ(荘厳の聖母)」は、師匠のドゥッチオの「マエスタ」を踏まえたものですが、確かに師匠の作より華麗で新しい感覚があります。
『聖母の都市シエナー中世イタリアの都市国家と美術』(石鍋真澄著/吉川弘文館)の中ではドゥッチョとシモーネ・マルティーニを次のように比較しています。
『つまるところ、ドゥッチョがイタロ・ビザンティン絵画を克服してシエナ派絵画を確立した、「イコン画家」という性格をのこした地方的画家だったのに対し、シモーネ・マルティーニは様式、図像、技法などさまざまな点で新しい要求にこたえた、いわば「新時代の画家」であり、シエナ派絵画を広くヨーロッパに広める役割をはたしたのである。』
ただ、シエナに来る前にはフィレンツェのウフィツィ美術館でドゥッチョの代表作の巨大イコンに感銘を受けていました。シエナでシモーネ・マルティーニを観ながら、師匠の絵のもつ「重厚さ、深さ」と弟子の絵の「華麗さ、軽やかさ」の間にある表現の幅の大きさにシエナ派絵画の懐の広さを感じた次第。

f0189227_0441270.jpg

f0189227_044417.jpg

それにしても、トスカーナの風景は本当に美しいですね。国立絵画館の窓からや、市庁舎の展望テラスから見渡した赤茶色の(バーントシェンナの)瓦屋根の家々とその向こうに広がる空間を一日中、ずっとみていたい気持ちでした。(Y.O)

f0189227_0441716.jpg

f0189227_0442448.jpg

[PR]

# by matsuo-art | 2015-10-25 01:32 | 展覧会  

イタリア美術紀行ーフィレンツェ編・その4(パラティーナ美術館/ ラファエロ「大公の聖母」)

f0189227_10312239.jpg

9月20日昼過ぎからは、ベッキオ橋を渡ってアルノ川の南、ピッティ宮殿の中にあるパラティーナ美術館にラファエロの聖母子像を観に行きました。

f0189227_10321371.jpg

この聖母子像は「大公の聖母」と呼ばれているそうで、2年前の東京でのラファエロ展の目玉として日本で公開されていましたが、そのときは観ていません。しかし、その展覧会のフライヤーに大きく印刷されたこの絵の複製は、仕事場の常に目に入る場所にあり、折りに触れて観て感銘を受けていました。

f0189227_10313285.jpg

パラティーナ美術館を訪れるのはなぜか今回が初めてだったのですが、入るや否や絵画が壁に3〜4段掛けになっているいかにも貴族の館風の展示にびっくりしました。そしてそんな部屋を進んで行くと、雑多な展示の中にまぎれてひっそりとお目当ての絵がかけられていました。そのあっけなくもさりげない掛けられ方にまたびっくりしましたが、あまり観客の注目を集めていなかったおかげで細部に至るまでじっくりと観ることができました。

f0189227_10321973.jpg

f0189227_10322446.jpg

f0189227_10322822.jpg

とにかく丁寧な描写と柔らかいトーンに感心します。そして画面が放つ微光。眼をこらして至近距離から見たり、窓からの光に反射させるようにして斜めから見てみると、透明な絵の具を細い筆でビッチリと描き込む事で精妙なトーンを作っている事がわかります。

f0189227_10323357.jpg

f0189227_10323872.jpg

ただこの絵は、そういう技術的な事だけでは語り尽くせない、ラファエロの良いところが凝縮された作品だと思いました。(Y.O)
[PR]

# by matsuo-art | 2015-10-24 10:42 | 展覧会  

イタリア美術紀行ーフィレンツェ編・その3(マリノ・マリーニ美術館)

f0189227_1664910.jpg

9月20日朝、マリノ・マリーニ美術館に行きました。ここを訪れたのは初めてです。
古い教会跡を改装した美術館で、白い漆喰の壁に木の手すりなどが温かく調和し、4層になっている展示階に非常に有機的な関係性を持ってマリノ・マリーニの彫刻、絵、デッサンなど大小の作品たちが配置されています。

f0189227_1665319.jpg

f0189227_1665972.jpg

f0189227_167513.jpg

f0189227_1671148.jpg

建物のディテールや窓、そしてそこから差し込む光までもが作品と呼応し、一つ一つの作品というよりも、空間との関係性そのものとしての美術館全体が何か、一つの物語を語りかけてくるかのようです。このような見事な配置の美術館は初めて見たような気がします。

f0189227_1671632.jpg

f0189227_1672235.jpg

f0189227_1672820.jpg

f0189227_16303160.jpg

この美術館を構成した人は誰なのでしょう? この美術館は1988年の開館で、マリーニ自身は‘80年に亡くなっていますから本人ではないはずなのですが、作家本人以外の人が構成したとはちょっと思えないような気持ちにさせられるほど、作品と展示空間が見事なまでに有機的に関係付けられているように思います。そんな私が感じた「関係性」を何とか写してみたいと思って写真をたくさん撮ってみたのですが、難しいですね。ここは、訪れる人が自身の目で新しい「関係性」を発見し、物語を紡ぐための開かれた空間なのでしょう。

f0189227_1673277.jpg

f0189227_167442.jpg

f0189227_1675038.jpg

空間が語りかけるユーモアやウイットに富んだ物語を楽しんでいるうちに3時間が経っていました。素晴らしい美術館でした。(Y.O)

f0189227_1673832.jpg

[PR]

# by matsuo-art | 2015-10-21 16:13 | 展覧会  

イタリア美術紀行ーフィレンツェ編・その2(ウフィツィ美術館)

f0189227_14572079.jpg

9 月19日の昼からは、いよいよウフィツィ美術館です。ここも多分31年ぶり(?)の再訪になります。
ウフィツィ美術館はイタリア・ルネッサンス以降の絵画のコレクションでは質・量ともに最大級で、建物自体も16世紀末のフィレンツェ政府の庁舎だったもの。とにかくたくさんの量の作品を観ることになるので、気合いを入れて向かいました。

f0189227_14214439.jpg

f0189227_14215075.jpg

f0189227_1594026.jpg

入口での手荷物のチェックなどを経て階段を3階まで上がると、まず第1室にジオット、ドゥッチオ、チマブーエの巨大イコンがそびえる大きな空間があります。たちまちこれらの作品の素晴らしさに釘付けになってしまい、4〜50分はこの部屋から動けませんでした。はじめからこんな調子では今日中に最後まで行き着けるのだろうか、と不安を感じながらさらに部屋を進んで行きます。

f0189227_1422861.jpg

f0189227_14221489.jpg

f0189227_14223592.jpg

ウフィツィ美術館の収蔵する膨大な絵画をほぼ時系列的に観て行った中で、第1室のジオットなどの他に今回最も心に残ったのは、フィリッポ・リッピとレオナルド・ダヴィンチ、そしてミケランジェロでした。フィリッポ・リッピとレオナルド・ダヴィンチからは表現するということの「過剰さ」(から来る異様さ)を強く感じました。(あと、パルミジアニーノからも。)そしてミケランジェロの「トンド・ドーニ」からは、そのような表現の過剰さが異様なオーラを放つと言うよりは、何か、技術や作品に込めるものが最高度に集約されて、あたかも突き抜けてしまっているような凄さを感じました。

f0189227_14342880.jpg

f0189227_14222582.jpg

f0189227_14223064.jpg

ただ、レオナルド、ミケランジェロ、ラファエロといったルネッサンスのスターたちも、ヴェロッキオ、ギルランダイオ、ペルジーノなどそれぞれの師匠からの影響をしっかりと受け継いでいるな、という事も強く感じました。そうした歴史の厚みをリアルに感じられるのは、時系列的、あるいは同時代的に作品を比較しながら観れるウフィツィのような巨大な美術館の利点だと思います。

f0189227_14224176.jpg

クライマックスのボッティチェリの部屋など3階を一通り見終わって、「あれ?ラファエロやティツイアーノやカラヴァッジオがなかったな?それに以前はレンブラントやルーベンスなどもあったはずだが?」と呑気に考えながら階下に降りていったら、まだ別室や2階にそれらの作品が大量に残っていました。

f0189227_14352797.jpg

f0189227_14224632.jpg

f0189227_1435856.jpg

閉館間際まで6時間あまり。館内を行ったり来たりしながら、気になる作品を目の奥に焼き付けるようにじっくりと見つめてきました。(Y.O)

f0189227_1452412.jpg

[PR]

# by matsuo-art | 2015-10-20 13:36 | 展覧会  

イタリア美術紀行ーフィレンツェ編・その1(サン・マルコ美術館)

f0189227_16575787.jpg

9月18日の夜、フィレンツェに「銀の矢」特急で移動。
翌19日、朝食後すぐに宿泊したホテルからサンマルコ美術館に直行。ここは1984年春に訪れて以来31年ぶりの再訪となります。とにかくフィレンツェに着いたら一番に行きたいところでした。
サンマルコ美術館はもと修道院で、内部には何十という僧房が並んでいます。そしてその僧房の一つ一つにフラ・アンジェリコのフレスコ画が描かれています。訪れた人はそれを観るために僧房を一つ一つ回ります。

僧房のある階に行くため階段を上がるとすぐに、有名な「受胎告知」が迎えてくれます。

f0189227_16583933.jpg

f0189227_16581752.jpg

本当に全部の僧房に、いろいろなキリストの生涯のエピソードを精緻な筆致で描いています。その量と集中力にまず感銘を受けます。そしてその色彩の柔らかさと透明感・・・。

f0189227_17142427.jpg

f0189227_165859.jpg

f0189227_16581182.jpg

自身も修道士であったフラ・アンジェリコにとって絵を描く事はなにより信仰の証であったでしょうし、描かれた僧房で過ごす修道士にとっても、その絵をよりどころにしながら大切に生活を共にしていたのではないかと思います。

f0189227_16582149.jpg

f0189227_16582689.jpg

f0189227_16584899.jpg


一階の回廊や大きな部屋にもフレスコ画が描かれ、大きなテンペラによる祭壇画もあります。ここは本当にフラ・アンジェリコの作品で荘厳された(この言葉がふさわしいかどうかわかりませんが)場所です。
朝の、ひと気のない静かな僧房を巡りながらフラ・アンジェリコのタッチを見つめる素晴らしい時間を過ごすことができました。(Y.O)

f0189227_16583217.jpg

[PR]

# by matsuo-art | 2015-10-19 17:06 | 展覧会