兵庫県立美術館「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展へ行ってきました。今年で設立25周年を迎えるブランドのミナ ペルホネンと、その設立者のデザイナー、皆川明を紹介している展覧会です。流行に左右されず、長年着用できる「特別な日常服」をコンセプトに独自のものづくりを続けているその活動は、ファッションのみならず、インテリアや食器など生活全般へと広がっています。
会場へ向かう階段を上がっていくと、一面にクッションが敷き詰められた壁が現れます。
会場では、生地や衣服、椅子や食器などのプロダクトに加え、デザインの原画、挿絵や壁面ペインティング、映像、印刷物、建築物など、皆川明の創作の背景を浮き彫りにする作品群と資料が展示されています。
皆川明がデザインする生地の図像や模様は、どこか昭和のテイストが漂っています。私が小さい頃に母親が持っていた婦人雑誌の挿絵や、当時のこども向け絵本に描かれたかたちや色の記憶、そうした意匠がそこはかとなく甦ります。それは洗練されない野暮ったさを持ちながらも、それゆえの質感や感情の現れというものを内包しています。
こうした昭和の記憶を持たない若い人にはどのように映るのだろうか、と考えたりもしますが、このテイストは、そぎ落とされたフォーマリスムへと行き着く前の、マチスやブラック、クレーなどがいるモダニズム萌芽の地平でもあるでしょう。それは感情や記憶とつながる地平であり、洗練されすぎたビジュアルを迂回する、絵描きとしてのデザインだと言えます。
展示構成を担当したのは、デビュー作のエストニア国立博物館でよく知られる建築家の田根剛です。場所の持つ記憶をテーマにした建築に取り組むとともに、いくつかの展覧会構成の仕事でも注目されています。ここでは、実、森、根、種、などの名前を与えられた8つの部屋で空間を構成していますが、不揃いの小さな玉が輪に繋がったtambourineという図柄をミナ ペルホネンの象徴として最初の部屋に持ってきたのは、田根剛のアイディアだということ。皆川明のコンセプトを理解し、空間全体に落とし込んだ構成と演出に注目してこの展覧会を味わうこともできるでしょう。
心地のよい刺激を与えてくれるこの企画、ファッションだけでなく、それ以外の美術、工芸、デザインを志ざす受験生にも是非観てもらいたい展覧会だと思います。(n.m.)
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by matsuo-art
| 2020-10-13 03:04
| 展覧会
スタッフをしています松谷が個展をすることになりました。
『松谷陽子水墨画展 影をたどる』
というタイトルで展示します。
今回の作品は影がテーマになっています。
植物観察が好きで、時間を見つけては散策をしてり近くの山を歩いたりします。
日差しが強い時期は影を縫うように歩きます。
植物の造る影の形は複雑で、ゆらぎがあり美しく、きれいな影の出ているところを選んで歩いたりもしました。
また、日陰の場所にも植物が満ちています。特にシダの種類の多様なことにも驚かされます。
そんな中で生まれたテーマが影をたどるです。
陰から想像したイメージと、シダ植物の絵で構成しています。
普段は植物画を描くことが多いのですが、抽象的なニュアンスを含んだ作品が多くあります。
水墨の墨一色の力を味わっていただけたら幸いです。
■松谷陽子水墨画展「影をたどる」
10月20日(火)〜25日(日)
ギャラリーPaw
芦屋市精道町2-15
時間:12時〜18時(最終日15時まで)
在廊予定日:20日(火)、21日(水)、24日(土)、25日(日)
y.m.
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by matsuo-art
| 2020-10-12 10:34
| 展覧会
現在、京都の堀川御池にある京都市立芸術大学のサテライトギャラリー@kcuaでは、「おかんアートと現代アートをいっしょに展示する企画展」が開催されています。「おかんアート」というのは、よく実家や祖父母の家に帰った際に、玄関や窓際やタンスの上などに飾られている、様々な手芸作品や工芸作品が「おかんアート」と呼ばれているものです。(軍手で作られた犬や猫、パッチワークの座布団カバー、チラシを使った造花などなど)様々なおかんアートを誰しも見たことがあると思います。
おかんアートは“ちょっとダサイもの”や“もらうと困るもの”というやや残念なものとして扱われることが多いですが、この展覧会はおかんアートの面白さに着目し、実際のおかんアートと、おかんアートと共通する手法や空気感をまとう現代美術作家の作品をいっしょくたに並べて展示するという面白いコンセプトで企画されています。私も友人の八木春香さんが出品していたので足を運んできました。
1階ではマニラを拠点に活動している作家さんと京都市立芸術大学の卒業生とのグループ展が開催されていました。階段を上がって、2階の会場でおかんアート展は開催されています。会場内にはおかん達の”何かを作らずにはいられない気持ち”が溢れでるように、膨大な量のおかんアート作品が展示されていました。
中でも犬や猫は人気のモチーフらしく、様々な手法で作られた愛くるしい顔の犬や猫たちが展示台の上でひしめき合っていました。
・5匹のシリーズ
・八木春香さんコーナー
八木春香さんの作品は一見可愛らしい架空の生き物のように見えますが、「妊婦」や「オリンピック」や「舌ピアス」や「古代の造形物」など、作者が生活の中で目にしたわりと現実的なものがモチーフとなっています。そしてタオル掛けやバッグやトイレットロール入れなど、実用性も兼ね備えています。今回は出品していませんが、彼女はとても面白い油絵も描いています。
・土器バッグ(八木春香)
・ピラティスのポーズの壁掛け(八木春香)
・現代美術作家の青木陵子さんの作品
・その他のおかんアート作品
※画像がいくつか横向きになってしまっていますが、ご了承ください。
膨大な量のおかんアートと、おかん達の旺盛な創作意欲に刺激をもらってとても楽しい展覧会でした。オンラインからは期間限定で作品の購入もできるようです。暑い日も続き、コロナウィルス感染拡大の心配もあり、なかなか足を運ぶのは難しいと思いますが、是非Webページを覗いてみてください。
「おかんアートと現代アートをいっしょに展示する企画展」
8月8日(土)~8月30日(日)
月曜日休館
https://gallery.kcua.ac.jp/archives/2020/307/
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by matsuo-art
| 2020-08-21 21:00
| 美術
京都市美術館は、京都市立芸術大学在学中の毎年2月に制作展(現作品展)の展示で利用していた美術館です。当時からすでに老朽化を感じさせる風情でしたが、それもそのはず、1933年(昭和8年)に開館され、公立美術館として日本に現存する最も古い建物とのこと。その美術館がこの春にリニューアルされて京都市京セラ美術館として生まれ変わりました。
当初は3月に新しく開館する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の広がりで5月までずれ込みました。開館当初は京都市民限定の予約制でしたが今は誰でもできるようになったので、予約をして行ってきました。
今回のリニューアルを手掛けた青木淳氏は、ルイ・ヴィトンの店舗や青森県立美術館などを設計している建築家です。独立する前の磯崎新氏の建築事務所では、らせん状のタワーで有名な水戸芸術館にも関わっていました。美術との関係が深いこともあり、京都市京セラ美術館の館長も兼任されています。青木淳氏の建築事務所には神戸芸術工科大学建築科卒の知り合いが就職していた関係で、ずいぶん昔に一度お邪魔をさせてもらったことがあります。
今回のリニューアルでは正面入り口の広場を緩やかなスロープ状に掘り込んで、地下1階から入館するという驚きの仕組みになっています。1階扉も残っていて、展覧会によっては開けるのかもしれませんが、今回は閉まっていました。
京芸の制作展では彫刻科の作品が毎回展示されていた中央吹き抜けの広いスペースも、真っ白できれいになっいました。新しく設置した螺旋階段で2階へ上がれるようになってます。本来このあたりは入場券がなくても自由に入れるフリースペースだったはずですが、コロナ禍を考慮して今は展覧会を予約した人しか入れません。
現代美術を展示するために新しく作られた新館 東山キューブでは「杉本博司 瑠璃の浄土」展が開催されています。
杉本博司氏は、写真から出発して、古美術、建築、浄瑠璃、科学、宗教など様々なジャンルを横断した作品で世界的に活躍している現代美術家です。今回の展示でも代表作の海景シリーズ、三十三間堂の千手観音などの写真作品だけでなく、古美術のコレクションや直島の護王神社の模型、巨大なプリズム装置や茶室など、幅広い領域への関心と思考が交錯する展示になっていました。
鎌倉時代の水晶五輪塔
アイザック・ニュートン「光学」初版本
硝子の茶碗
イミラック隕石
龍頭 鎌倉時代
法隆寺 瓦 平安時代
ニュートン式スペクトル観測装置。周辺では虹のように分光された光がいくつか観察できる。
硝子の茶室
京都市京セラ美術館を出た後は、京都国立博物館近くの三十三間堂へも行ってきました。博物館へ訪れる度に帰りに立ち寄ろうと思っていた三十三間堂ですが、疲れたり時間切れだったりで未だ行ったことがなかったのです。杉本氏の写真作品を観た後にやっと実物を見ることが出来ました。(n.m)
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by matsuo-art
| 2020-07-30 01:00
| 展覧会