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「ゴーイング マイ ホーム」関西テレビのドラマ

関西テレビのドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(火曜夜10時)が、とてもよい。脚本・監督は、映画「誰も知らない」(2004年)でカンヌ映画祭の賞(主演男優賞)も取った是枝裕和(これえだひろかず)監督ですが、この作品は、まさしくテレビの枠を借りた”映画”です。

フィルムで撮ったかのような色調と、背景や手前をぼけさせる被写界深度。絶妙なフレーミングと、さりげなくもよく練られたカット割り。
場面転換に挿入される短い風景のカットの美しさに思わずうなったりするのですが、そのような映画的な美しさがテレビで成立するようになったのは、言うまでもなくデジタル放送の解像度と横長の比率の画面です。

思えば我が家のテレビをデジタル対応に買い替えて最初に観たBlu-ray、タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」冒頭のフランス田園風景の解像度の美しさを目にした時に、すでにこのことを予見できたはず。あの時は「家のテレビが映画館並みの体験に近付いた!」と感激したわけですが、「ゴーイング マイ ホーム」では、テレビドラマが”映画化”しているのです。

例えば海外のドラマでは「24」、「ロスト」、「フリンジ」など、脚本、予算、技術でハリウッド映画並みの作品があります。「ゴーイング マイ ホーム」は、その”日本映画版”とも言うべき質のドラマです。海外で認められている日本映画には、北野武にせよ、周防正行にせよ、小津安二郎の遺産を正当に受け継いでいる流れがあると私は思っていますが、是枝裕和によるこの作品も、小津安二郎の遺産を受け継いで、ハリウッド系海外ドラマと堂々と渡り合うことが出来る、正当な日本映画系ドラマだと思うのです。

このドラマ、初回放送が2時間の拡大判だったのですが、それは普通、最終回でやるべきことで、初回からやったって忙しい人は誰も観ないよー、と思いました。でも実際に観てみると、初回を拡大判にした理由はすぐに分かりました。普通のドラマでは初回の60分で必要な状況説明を行う訳ですが、この作品は独自の静かなリズムと語り口を守るために、それを拒んだのでしょう。初回60分に説明を無理に押し込めない、という心意気を感じました。

ストーリーは、阿部寛演じるちょっと冴えないテレビCMディレクターの良多が、倒れた父親を見舞いに、父の故郷・長野に行くことをきっかけにして「クーナ」という自然と共生する小人を探し始める、というもの。それを軸にしながら、登場人物それぞれを、日常の情景の中にゆっくりとしたリズムで、少しユーモラスに描いていきます。最近のドラマによくある、本来禁じ手であるはずの ”主人公の独白で内面を表現する” というようなヤボなことはもちろんしていません(NHK「純と愛」は、人の心が読める愛を登場させることで、見事にそれを必然性に変えていますが)。役者さんの演技をきちんと撮ることで内容を伝えているし、また、脚本にあるのかアドリブなのか分からなくなるような自然な演技も引き出せていて、すばらしい。

私が好きなドラマは視聴率が低い、という例に漏れず、このドラマも視聴率が低いそうです。多くの日本人に観てほしい内容だけに残念ですが、「世界は見えているものだけで出来てるんじゃないんだよ」というテーマは、良多が属するCM・テレビ業界の合理主義とは逆を行きます(是枝監督はCMも撮っています)。現実のテレビ業界は、視聴率が悪いと早くに打ち切ることもあるという効率重視の価値観から、「ゴーイング マイ ホーム」を守っていただきたいと願います。(n.m.)
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by matsuo-art | 2012-11-30 22:12 | TV