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2009年 11月 04日 ( 1 )

 

夏目漱石「草枕」

半年ほど前になるが、NHK教育の「私の人物列伝」で、孤高のピアニスト、グレン・グールドを取りあげていた。グールドは1982年に50才の誕生日を前にして亡くなったのだが、死の直前の枕元には夏目漱石の小説「草枕」の英訳本が置いてあったと言う。グールドはこの本を何度も繰り返し読んでいて、ラジオ番組で朗読したこともあるというのだ。それを知って、草枕を最後まで読んでみようと思い立った。

「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」という有名な文句で始まるこの小説だが、私は数十ページ読んだっきり、そのままにしていたーーーと思っていた。ところが昔買った文庫本を引っ張りだしてみて驚いた。最後のページに読了したサインとなる日付"1985,5,10”が手書きで入っていたのだ。
全部、読んでいた。でも全く、覚えていない。

草枕は、世捨て人っぽい画家が山の宿に泊まった時の些細なエピソードで綴られた小説だが、彼がいろいろと想いをめぐらせていく中で、いくつかの絵画に言及している。今思えば、私はそれらの作品についてほとんど知らなかったはずだ。そんなことも内容を覚えていない理由の1つだろう。
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たとえば「ミレーのオフェーリア」(写真は部分↑)。この作品を当時の私は知らなかったと思う。これは草枕のストーリーの中核に関わって来るので、知っていないと分かりにくい(夏休みの宿題で生徒のTさんががんばって模写した作品です)。

「蘆雪の山姥(やまうば)」も出て来る。長沢蘆雪の、おそらく「絹本著色山姥図」(重要文化財,厳島神社蔵/写真は部分↓)のことだろう。当時私は大学図書館で蘆雪の「白象黒牛図屏風」を見つけて一人興奮していたが、その作品以外に長沢蘆雪という人の情報を全く持っていなかった。今では好きな歴史上の日本人画家トップ3に入る。
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「床にかかっている若冲の鶴」も出てくる。「一本足ですらりと立った上に、卵形の胴がふわっと乗かっている様子は、」と書いているので、このタイプ↓の墨絵だろう。伊藤若冲にしても、動植彩絵の群鶏図やタイル絵のような動物画を知っていたくらいで、墨絵についてはまだあまり知らなかったと思う。(ちなみに今、新発見された屏風を含めた若冲の企画展「若冲ワンダーランド」が滋賀県のMIHOミュージアムで開催されていて、必見です)。
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草枕には絵画だけでなく、徂徠や山陽の掛け軸、硯、英詩や漢詩についてなど、芸術文化についていろいろと言及されるが、まだ知らないことだらけだ。10年後にまた読んだとして、少しは今よりも理解できるようになっているだろうか。(n.m.)

by matsuo-art | 2009-11-04 03:38 |