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杉本博司展/クリスチャン・ボルタンスキー展/アニッシュ・カプーア展/杉本裕子展

群馬・高崎で開催された合気道の国際大会に参加するためと、東京でいくつかの展覧会を観るために、一日半のスケジュールで東京方面に行ってきました。
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1)まずは高崎での合気道国際大会です。竣工したばかりの高崎アリーナの広大なメイン会場を、世界中から集まって来た何百人もの合気道家が埋め尽くしています。私もその中で半日だけでしたがしっかり稽古してきました。(写真は稽古のあとの余韻の残る会場風景です。)
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2)東京に戻って、まずは銀座の中和ギャラリーの「杉本裕子展」です。杉本さんは松尾美術研究室の創設時に講師をされていたこともあります。今回の個展でもアトリエや日常の風景をキャンヴァスやビニールシートや木片に「パンクに」(?)描き、刻み、所狭しと並べ、杉本ワールド全開でした。(中和ギャラリーのウェブサイトのFacebookページで杉本さんの作品の写真を少し観ることができます。)
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3)上野の東京芸術大学の近くにあるSCAI the bathhouse に「アニッシュ・カプーア展」を観に行きました。このギャラリーはお風呂屋さん跡を改造したユニークな建物です。会場の広さの制約から展示されている作品はカプーアの作品としては小さめのものなのでしょうが、磨き込まれたステンレスの表面に無限が見える作品、お椀上の形態の内側にマットな黒の塗料が塗られ、表面がブラックホール化したかのような壁掛けの作品、そして闇の作品と一体化した建築の模型など、彼の特徴がよくわかる作品が緊張感をもって展示されていました。光を吸い込んでしまう表面と、鏡面のように光を反射する表面。あるいはその中間的なもの。これらの作品は一見トリッキーな見かけなのですが、単なる効果にとどまらず観るものを、その身体性への自覚から、瞑想的なるものへと誘う本質をもっているように思えました。
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4)白金台の東京都庭園美術館に「クリスチャン・ボルタンスキー展」を観に行きました。旧朝香宮邸のアールデコ調の室内にさまざまな声が響いています。別棟のギャラリーでは大きなインスタレーションが展示されています。ここでも無数の風鈴が響き合い、また、吊り下げられたたくさんの半透明の布が揺らめいています。一つ一つの作品は決して強い印象を残すものではありませんが、作品自身が発する響きがこの場所の持つ歴史性と響き合い、それを体験する私たちの何かを響かせる・・・そんな展覧会でした。
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5)最後は恵比寿の東京都写真美術館の「杉本博司展」です。美術館の3階と2階の二つのフロアを使った展示です。
「ロスト・ヒューマン」と副題がつけられた今回の展覧会は「人類の文明の終焉」がテーマです。3階部分は、杉本氏自身による文明終焉に至る33のストーリーが掲げられ、それに関連したインスタレーション(杉本氏による古代から現代までの考古学的/歴史的遺物の膨大なコレクションと自作の写真作品を構成したもの)が展示されています。
この階のはじめと終わりに「海」の連作から1点ずつが展示されているのですが、この作品が非常に印象的でした。人類の文明の栄枯盛衰に変わることなく太古より存在し続け、また未来へと存在し続ける超然とした「海」。この作品の持つ意味が、中間にある人間の文明の有象無象のドラマを挟むことによってより浮かび上がります。(さらにはバッハの「ゴールドベルグ変奏曲」の冒頭と最後のアリア、そしてそれに挟まれた変奏曲群という構造をも想起させました。)

2階の展示では、新作の「廃墟劇場」の連作と、京都・三十三間堂の千体仏を撮った「仏の海」が背中合わせに並べられていて壮観です。
とりわけ、今は廃墟となってしまった内部が崩れた劇場跡に改めてスクリーンを張り直し、そこに自らが選んだ末世の人間像がテーマと思わせる作品(「ディープ・インパクト」「ゴジラ」「渚にて」「異邦人」「羅生門」など)を映写し、その映写時間だけシャッターを開いて長時間露光した「廃墟劇場」の作品群は、モノクロの抑制されたトーンながら、中央で輝くスクリーンの光とそれに照らされた廃墟の内部のディテールの対比が異様なまでの象徴性を伴い、圧倒的な力を放っていました。(下の写真は同展のカタログです。)

この展覧会は、近未来において起こりうるかもしれない「文明の終焉」のシナリオを提示することによって、現在の人類共通の問題点を改めて問い直し、未来にそうした結果を生まないようにするための再考の機会だ・・・という意味の主催者による説明が掲示されていました。しかし芸術は両義性を持っています。この展覧会を実際に観て、この説明にあるような教条的なものにとどまらない、「ぞっとするような美しさ」を作品の中から感じました。それが一体何なのか、どこから来るものなのか、私の中に残った手触りの意味を考え続けています。
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まだまだ観たい展覧会や訪れたい美術館があったのですが、今回はこれで時間切れです。
最後は、上野から日暮里へと抜ける途中にある谷中墓地で見かけた猫です。(Y.O.)
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by matsuo-art | 2016-10-02 11:00 | 展覧会  

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