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大竹伸朗展「ニューニュー」/丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

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10月13日、日帰りで、香川の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催中の大竹伸朗「ニューニュー」展と、岡山県立美術館で開催中の中原浩大「自己模倣」展に行ってきました。中原浩大展についてはまた別の機会に譲るとして、今回は大竹伸朗展についてレポートします。

今月号の美術手帖誌はまさしく本展をメインにした大竹氏の特集になっています。本展出品作の大部分も掲載写真で見ることができますが、同誌を見ているうちに大竹氏の過剰なまでの物質感や作業性そして作品のスケール感を直に感じたくなって、当初の目的地の岡山からさらに足を延ばすことにしました。
思えば、大竹氏の実作品をまとまった形で観るのは、90年代のはじめに大阪なんばで観た回顧展「ECHOES 55-91」と、東京の佐賀町エキシビットスペースのあった食料ビルの中のギャラリーでの個展(いつのことだったかどうしても思い出せない)以来です。

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今回の個展は、2006年に東京都現代美術館で行われた大規模な回顧展「全景」以降の新作を集めたものだそうですが、おそらく一番の目玉作品は、昨年ドイツ・カッセルで行われた「ドクメンタ13」展で発表されたという「モンシェリー:自画像としてのスクラップ小屋」でしょう。フロアーの半分位を占め存在感を放って鎮座しています。ベースとなる小屋の内外には様々な印刷物や習字(?)が貼付けられているとともに、看板、ギター、自転車、人形、キャンピングカー、金属の棒材、サーフボード、スピーカー、漁の投網、ランプなど様々なオブジェがブリコラージュされ、異形の小屋へと成り果てています。
しかし特筆すべきだと思うのは、小屋の内部に巨大なスクラップブックが内包されていることです。これを観た時、大竹氏の作品の核心部分を観たような気がしました。

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大竹氏がかなり若い頃から路上で見つけた印刷物をひたすら貼り込み続けた大量のスクラップブックを制作していることは知っていました。(異形のスプラップブック!)このスクラップブックに関して、今月号の美術手帖誌でのインタビューで大竹氏は以下のように語っています。

(スクラップブックを始めたときは、)1ページごとの完成度に主軸を置く作品制作といった意識というよりは、「世界中の路上に散らばる印刷物すべてを徹底的にノートに貼り込む」といった思いを注ぐことに興奮を覚えていました。(中略)スクラップブック制作中に自分の中に起きている感覚はその構図や主張ではなく、拾い集めた素材を徹底的に貼り続けることによって少しずつ全体に起き始める「密度」、その「密度」と一体化していくかのような、何ものにも代え難い快感を求めていたのかもしれません。それは決してコンセプトから生まれるものではなく、今現在でも予期せぬ「事故」的な出来事がいつも大きく関係していて、その最初期の「密度」との出会いに対する指針は変化していないように思います。

昨年の10月のM先生が書いたブログ(「中原浩大 Drawings 1986-2012 コーちゃんは、ゴギガ?」展のレビュー)では、中原氏の「観客ゼロのドローイング」に関して考察していましたが、大竹氏の「スクラップブック」も限りなく「観客ゼロ」な質を持っているのではないか?と思うのです。つまり、自分のやっていることを客観的に判断する視点を持つというよりは、「貼る」という行為の内発性が出来事自体としてある形をとって立ち上がってくるということです。私は以前から、大竹氏の作品からは突拍子もない物体やイメージの扱い方から来るユーモアや、その作品の持つドライな質感にインパクトを与えられつつも、その一方で表現の対象や方向性のようなものをあまり感じませんでしたが、大竹氏のその多様な作品そして異形の小屋としての「モンシェリー」も本質的に、内発的な質を持つスクラップブックの延長線上にあるものとして成立して来るのではないか? 大竹氏の作品には「表現の対象や方向性」というより、いわば「スクラップされることの意味をスクラップすることが指し示している」というような質を持つのではないか? そして「自画像」であるという「モンシェリー」の心臓のように内包されている巨大なスクラップブックは、そうしたことを隠喩(あっけらかんとした物体群の中で唯一デリケートな象徴性をもって表現されているかのように見える)しているのではないか? ・・・自分が観た異形のものをなんとか咀嚼したいと思ってそんな自問自答を繰り返しています。

会場の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館に来るのは2回目ですが、色々な点で凄く気持ちのいい美術館です。建築もかっこいいし、清潔で、職員の方々も丁寧で親切です。前回来たときもそうでしたが、始終気分良く過ごせました。最後に受付のお姉さんに無理を承知で近所におすすめのうどん屋さんを尋ねたのですが、ちゃんとうどん屋さんが記載された地図まで持たせてくれて教えてくれました。やっぱりよく尋ねられるんでしょうね(笑)。(Y.O.)

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by matsuo-art | 2013-10-14 20:44 | 展覧会  

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