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坂口恭平「独立国家のつくりかた」(講談社現代新書)/「新政府展」(ワタリウム美術館)

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昨日(1/10)の朝日新聞・朝刊に坂口恭平氏のインタビューが載っていた。

坂口氏の本「独立国家のつくりかた」(講談社現代新書)は、昨年僕が読んだ本の中で最も爽快感に満ちた、興味深い本の一冊だった。その本の中で坂口氏は、2011年5月、機能不全の政府に代わる「新政府」をつくりその総理大臣になった彼がどのような経緯でその設立に至ったのか、またどのようなことを目指そうとしているのかを熱く語っている。(僕は本を読んでいたから朝日のインタビューでの発言も理解できたけど、記事を読んだだけでは彼のことが読者に伝わるのかなあ?)

その活動の原点は、子どものときから持ち続けている、お金の必要性に対する疑問、土地の所有についての疑問、エネルギーについての疑問、といった素朴な疑問の数々にあるという。そして、そうした疑問を持つ彼は、独自のクリエイティヴな方法によって限りなく「ゼロ円」で生活している、隅田川畔に住む路上生活者たちとの出会いによって、「自分でゼロから考えてやれば、どんなことだってできる。しかも、実は社会システムですらそれを許容してくれるように設計されているのである。ただ、そこ(※引用者注:社会システムのなか)で生きる人間たちが勘違いしているだけなのだ。なにもできない、と。お金がないと死んでしまう、と」(前掲書より)という確信に至る。

安価で制作したユニークな移動可能な家である「モバイルハウス」の実践や、3.11後の熊本への移住と、震災避難者の受け入れ活動、「新政府」の樹立、「自殺者ゼロ」を国是として掲げ、自分のケータイ番号を公表して生きることに困難を感じている人々の声を聞く「いのちの電話」、日本全国にある休遊地を(「新政府」領土として!)有効活用するプロジェクトなど、「新政府」の活動が語られるのを読みながら、僕は色々な先人たちのオルタナティヴな実践を想起していた・・・・バックミンスター・フラー、ビクター・パパネック、スチュアート・ブランド「ホール・アース・カタログ」、ビル・モリソンのパーマカルチャー、象設計集団、PH STUDIO、石山修武(坂口氏の先生だそうだ)、川俣正、藤村靖之の非電化製品、ウィリアム・モリスの「ユートピアだより」、ヘンリー・D・ソローの「森の生活」、ヨゼフ・ボイス、フンデルトワッサー、ガンジーのアシュラム、小田実「一人でもやる、一人でもやめる」、マイケル・リントンのLETS(地域通貨)、「夜回り先生」、などなど・・・(以上敬称略。実際にこの中の何人かは本の中で言及されている)。そうした人々の実践がでアマルガムとなって坂口氏の身体の中に渦を巻いているようだ。

そして、「新政府」の活動のすべてを包括して坂口氏は、「アート」(贅沢品としての「芸術」ではなく、生きるための「技術」としての)であると言う。僕も、そうとしか呼び様がない、と思う。「アート」は、最も個人的な部分から生じ、その活動の中で多かれ少なかれ周囲の人を巻き込みながらも、その核心部分は自分自身が真に生きるために否応なく噴出して来る「本来名付けようのない何か」なのだ。

この本に書かれているいろいろなエピソードや坂口氏の考えは(性急な断定や矛盾点などもあるが)、それを読む私たちの足下をもう一度掘り起こして、生活への新しいアイディアの生成を触発させる非常にラディカルな(ラディカルとは「過激」であると同時に「根底的」であるということ)刺激に満ち満ちていて、是非とも一読をお勧めしたい。

そして現在、このような「新政府」の活動を報告し、また生み出す場としての展覧会「新政府展」(ワタリウム美術館)が東京で開催されているとのこと。僕も観に行きたいなあ。(Y.O.)

by matsuo-art | 2013-01-11 02:54  

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