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“スコラ” 坂本龍一 音楽の学校、バッハ、そしてセザンヌ

NHK教育の番組「“スコラ” 坂本龍一 音楽の学校」が4月から始まっています(毎週土曜日、23:45~24:14)。
ワークショップやゲストとのトークを交え、坂本龍一氏が各テーマに沿って音楽の魅力に迫る番組。氏は現在、全30巻の音楽全集“commmons: schola”シリーズを監修・発刊中で、これはその映像編という位置づけのようです。日本ではあまり見受けられない形式の番組で、いろいろと示唆にとんだ興味深い番組です。


4月のテーマは「J.S.バッハ」 。3日の第一回では「なぜバッハは音楽の父なのか」をテーマに、「調性」という今日の音楽の礎を築いたバッハを紹介していました。
音楽の父バッハに対して、絵画の父と言えばセザンヌ。バッハほど厳密ではないにせよ、絵画表現を色彩と形態の要素に還元し、絵画の近代化の礎を築いた人です。たとえばセザンヌ最晩年の次の2点。こうしたほとんど抽象画と化した作品を見ていると、バッハの音楽が聴こえてくるようです。

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色彩の関係と絵画空間の構築のために、結果として描かれたものの形態から絵画を解放させたセザンヌの試みは、セザンヌの作品に直接影響を受けたピカソとマチスによってさらに展開し、デザインワークも含めた今日の視覚表現のベースとなりました。

しかし、バッハが活躍したのは18世紀前半、セザンヌの名作が生まれるのは19世紀末、絵画の父は音楽の父に遅れること約150年です。その差は、絵画が描かれたもの(=指示対象)の形態に長い間とらわれてきたのに対し、音楽は指示対象の形態を持たない(例えば、音楽のメロディは鳥のさえずりや雷鳴の音をそのまま写している訳ではなくて、作曲家の頭の中で新たに構成される)という、音楽がもともと持っている抽象性によるものなのでしょう。

小林秀雄はその著書「近代絵画」で、セザンヌが好んで使ったモチーフ(motif)という言葉が音楽用語から来ていることを指摘しています。また、立体感を明暗で出すmodelerという単語を使うのを嫌い、音楽家が使うmoduler(変調)を使うべきだ、と言ったといいます。”印象派の時代以来、音楽は、絵に強く影響し始めた”とも書いていますが、確かにハーモニーやトーンなど、色彩用語の多くは音楽から来ています。「モチーフを捜しに行くのだ」と言うセザンヌが音楽のモチーフ(動機、主題やそれを形成する旋律の断片)という意味で使っているのならば、我々が「今日のデッサンのモチーフはワイン瓶です」というのとは違う使い方をしていることになります。緑や大気の色の移り変わりを見て、音楽を感じていたセザンヌを想像してみました。

この番組では、毎回最後に坂本龍一(+ゲスト)の演奏も聴けるということで、前回のピアノとチェロによる「マタイ受難曲」も感銘的な演奏でした。システムを築き上げたと言えば堅苦しく聞こえますが、バッハにせよ、セザンヌにせよ、その作品がたいへん美しいのが、またなんともすばらしいところです。(n.m.)

by matsuo-art | 2010-04-21 14:29 | TV  

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